「来訪者の血、かぁ」
「怖いのか?」
「…どうだろ。怖いのかもしれない。
来訪者の血を取り入れる事がじゃなくて…もっと、別の ―」
嘉凪の家は古い家だ。
いくら他者を受け入れると言う、旧家の家には珍しい開けた家柄ではあるのだが、さすがに今回の話は叱責を受けざるをえないだろう。
来訪者の血を 自身の体に取り入れようとしているのだから
一族からの叱責など、女であり次期当主でもあった綾乃は慣れている。
自分は慣れているのだが…自分の伴侶となる事を決めてくれた、隣にいる伊知郎はどうだろうか。
旧い家は変化を嫌う。
来訪者である伊知郎と婚姻を約束したと一族に報告した時の叱責は今でも忘れない。
部外者を 異なる血を取り入れる事を恐れ、一族の心無い者達から浴びせられたのは、酷い罵倒の言葉だった。
それを今度こそ、綾乃は自分だけでは受け止めきらず、彼にまで辛い思いをさせてしまうかもしれない。
それが怖かった。
「俺の事は気にせずともいい。俺が、君を護る。
巫女でなくとも、君は俺の隣に居てくれる。それだけで十分だ」
綾乃の恐れを、どう解釈したのだろう。伊知郎は静かに微笑むと、綾乃の頭にそっと手を置いて、そのまま彼女を抱き寄せた。
励ましてくれているのだろう、力づけてくれているのだろう それが嬉しくて、綾乃は静かに目を伏せた。
「強く、なりたい。 心も…すべて」
護りたいものが増えた。
家族も 友人も 結社のみんなも だけど、それ以上に一番愛しい人が出来た。
彼は自分を護ってくれると言う。確かに、彼の方が自分よりも何倍も強くて頼りになる。
その彼は自分の大事な者達を護ってくれると言ったから、自分はその彼を護れる強い力が、心が欲しかった。
自分は伊知郎よりも前に出て戦える程、武術に精通した者ではない。ならばせめて、後ろから彼を護る為の戦い方をしようと決めた。
前に出て肩を並べる事も考えたが、常日頃からそうでないのであれば、逆に伊知郎を困らせるだけだから。
だから マーガレットから血を貰う約束をした 雪女と言う来訪者の力を得る為に
「護りたいの 私の大事な者を護ってくれる、伊知郎を。 戦う力だけじゃなくて、護る力で」
強くなりたい。もっと強く
久臣が力を欲した理由も、今なら彼に継承権を譲ったあの時以上に、きっと理解出来る。
大事な者が増えたのだ。
家族 友人 結社 婚約者
自分を 好きだと言ってくれる すべてが愛しいと
だから 力が 来訪者の力を欲した。
心の強さを得る為に、戦える強さを得る為に
水曜日のBC終った後に、綾乃のバイトを雪女に変えます。
本当なら日曜日に変えられたのですが、急いで変えてもなぁ、と思って。レベルも上げたいから経験値も欲しいですし。
もう引き返せないところまで来たんです。腹も決めました。
ちなみに題名は綾乃の次の称号候補です。前半はいいの思いついたら変えるかも。
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