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管理の合間に背後がのらりくらりしてる所です。
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2024/04/19 (Fri)
毛利煌(b81110)ちゃんのトコの背後さんとの連動企画?っぽいものです。

そちらの日記、EPシナリオの『Time flies ~銀の世界の12年~』をご覧になった上での閲覧を推奨いたします。





◆2021年 ―  日常 …?
 
 
 
「綾ねえ、今すぐ出られるか?」
 
 朝食を終えた頃、まだ日が昇りきって間もない時間に珍しく、久臣が葵袴ではなく私服で離れを訪れていた。優奈を着替えさせて、髪を結ってやろうとしていた綾乃はその何となく急いだ様子に首を傾げる。
 
「どうしたの? 急ぎ?」
 
 久臣の様子にただならない空気を感じる。
 
今日は休日。まだ日が昇って間もないこの時間であれば、久臣は道場で鍛錬を行っているか、本殿で朝の祈祷の時間の筈なので私服でいる時間のはずがない。
綾乃も今日は休みなので伊知郎と一緒に優奈と買い物に出掛けるつもりだったのだが、そうはいかないようだ。不思議そうに自分と久臣を見上げてくる娘に、買い物はキャンセルだとどう上手く伝えようか頭を悩ませる。
 そんな悩んでいた綾乃の傍にいた娘が視界の端に消える。同じく出掛ける準備をしていた伊知郎が、彼女を抱き上げたのだった。
 
「優奈は俺が見ておくから、行ってこい」
「…お願い。 優奈、ごめんね。今日の晩御飯は好きなの作ってあげるから」
「はぁい」
 
 母親と叔父の様子に我がままを言えない雰囲気を察してくれたのだろう、ちょっとばかり寂しそうな娘の額にキスをする。するとくすぐったそうに笑う様子を見てから綾乃は久臣と一緒に部屋を出る。そしてそのまま彼は玄関の方へ歩き出した。
その随分と自分よりも高くなってしまった背中を追いかけて歩くと、後ろを振り向かずに久臣が話し始めた。
 
「煌さんの居場所が分かった」
「!? それ、本当?」
「ああ。 ― 彩華」
 
 煌 ― 綾乃と久臣が交流があった毛利煌と連絡が途絶えてもう何年も経つ。単に疎遠になってしまったのならば、それも仕方ない事なのだろうが、事態はそうではなかった。
 
確かに別れはごく自然で、煌自身の意思で連絡が途絶えたのだ。そこまではいい。
だが、それが死別ではないのかと予感させる出来事が久臣にはあったのだ。それは彼自身が銀誓館学園に通っていた頃に。そして一枚の報告書がそれを確定づけた。
だから2人は彼女の行方を捜していた。
幸せに過ごしているならそれでいい。けれど、そうでないのならば…そう、思って。
 
 久臣に名前を呼ばれて、2人に着いてきていた彩華が口を開く。
 
「毛利様は現在、ある噂のメガリスを手に入れる為に日本を出ようとしていらっしゃいます」
「海外に? どうしてメガリスなんか…」
「それは俺も知らない。けど、後で本人にでも聞けばいい。
 で、だ。綾ねえ、イグニッションカードを持ってるか?」
「持ってるわよ…でも、何で?会いに行くだけなら必要ない ―」
 
 そこで綾乃は言葉を切った。戦線を退いたはずの綾乃がイグニッションカードが必要になるような事態に、彼女は一つ思い当たる事があったからだ。
 
姉の行き当った事と同じ事を思い出していたのだろう。
まだ、久臣が銀誓館学園に所属していた頃に見た一件の未来を予報した報告書。当時の2012年から12年後までの未来を綴ったものに、信じられない事が書いてあったのだ。
 
「今日があの日だったんだ。 煌さんが…今日、ゴーストに殺される」
 
 淡々と書き連ねてあった言葉。
10年近くも前に読んだ報告書を、自分は今でも忘れていない。それは、 毛利煌の最期だった。
 
 
 
 
 
◆◆◆◆◆
 
 
 
 
 
 目の前に倒れたものが人影だと言う事に気が付いた時には、綾乃は駆け寄っていた。
 
「― 煌ちゃん!」
 
 人気がない場所 ― それはまるで猫が人目を避けて死に場所を選ぶかのように、彼女はその場所に一人倒れていたのだ。煌に駆け寄る姉に注意を向けながらも久臣は連れてきた2人の影に短く指示を飛ばす。
 
「彩華、周囲にゴーストがいないか警戒を。貴也、退路を確保しろ」
「雛、あなたも回復して」
「もきゅ!」
 
 久臣の指示に2人が動き始め、彼自身も煌の傍に駆け寄ると周囲のゴーストに警戒を怠らない。その間にも綾乃と呼び出された雛の懸命な回復は続く。
余程傷は深かったのか、たった数分なのだろうが2人が回復の手を休めるまでの時間は何時間にも感じられた。
 
蒼白、と言っても過言ではないだろう顔色に大した変化は見られない。腹部は痛々しいほどまでに緋色に染まっており、生きていると言う方が信じられない状態だった。しかし、回復手はその手を止めない。
綾乃も戦線から退いてだいぶ経ち、滅多な事では能力も使わなくなってしまっていた。しかしやはり体が覚えているものなのだろう、煌の体の傷は間もなく塞がり、流れ出ていたものもそれ以上衣服を染める事はなくなった。
治療が落ち着いたのを確認したのだろう、周囲を警戒しに離れていた彩華と、一度車まで戻っていた貴也が戻ってくる。
 
「久臣様、周囲に残党はいない様子です」
「ありがとう。貴也、ここまで車は回せるか?」
「無理をおっしゃらないでください。こんな細い場所までは到底」
 
 貴也の言葉に久臣は無理もないと思う。ここは細く、足元も悪い。車を回せるかと聞いたのは、単に可能であればと思って口にしたもので期待して口にしたものでもなかった。なので、すぐに頭を切り替える。
 
「綾ねえ、煌さんの容体は?動かしても大丈夫か?」
「まだ安心できないわ。でも、傷は塞いだから移動させるのは大丈夫。…こんなトコに置いておく方がよくないわ」
「分かった。俺が車まで連れて行く。貴也、車を出せる状態にしておいてくれ。彩華と綾ねえは煌さんの護衛を」
 
 言うが早いか久臣が煌を抱き上げる。元々身長差があるとは言え、久臣には彼女は儚げ…いや、危なっかしいところがあるように見えていた人だ。こんなに軽い体で、それでも一生懸命立とうとしていたのかと思うと、あの別離を告げられたあの日に自分が何も言えなかった事が情けなく、悔しく感じた。
 
 
 
 
 
◆◆◆◆◆
 
 
 
 
 
 神和神社の離れ ― 今は綾乃が夫の伊知郎と娘の優奈と一緒に住んでいた、嘗ては銀誓館の結社として一部開放していたその場所の一室に久臣は待機していた。
 
隣の部屋に煌が寝かされており、綾乃と、嘉凪の家に奉仕してくれている専属医が来ており、医師は先程帰ったばかり。今は綾乃が彼女が起きた時の為の服や、喉が渇いた時の為の水差しなどを用意してくれているところだった。
 
 
 敷地の中は静かだった。
当主を継承した久臣は、先代である祖父の茂久から神和神社の結界も継承していた。
外敵からの攻撃を弾いたり、不当な侵入者を拒むような大層なものではないのだが、敷地内に張り巡らされたそれは、害意がある者の侵入を知らせる為のもの。煌に怪我を負わせたゴーストと思われるものが万が一追ってきていれば、久臣には分かるようになっている。遠くから監視されているのならば分からないが、少なくとも今すぐ襲い掛かってくる様子はない。
 
襲ってきたゴーストが何者なのか、まだ正体は分かっていない。しかし、ここを安易に襲撃しようとするほどの頭でもなかったようだ。
少なくとも煌さんが元気になるまでは周囲の哨戒もしなければ、と久臣が思考を巡らせていると、襖がそっと開き、隣の部屋から綾乃が出てくる。
 
「煌さんは」
「眠ってるわ。安静にしておけば怪我も一週間で塞がって生活に支障はないでしょうって、先生が。」
 
 ただ、戦うのにはもうしばらくかかる、と付け足して綾乃は久臣の目の前に座った。
経過が順調な様子を聞いて、久臣は安堵の息を零す。しかしそれもつかの間、苦いものでも飲んだように顔を歪めた。
 
「分かってた、筈なんだけどな」
「今日の事?」
「ああ。もう…何年前だろうな。煌さんと、一緒に綾ねえの誕生日プレゼントを買いに行ったのは」
「もう、10年も前よ」
「…10年か。」
 
 10年前、綾乃の誕生日プレゼントを買いに行った数日後に、煌と久臣はゴーストタウンに行っていた。
確か、彼女に誘われて行ったのだと思う。そこで負傷した煌を家に送り、分かれたのも10年前。
 
あの時の告げられた彼女の決意は本当だった。
それから数年後、大学に進学した後の彼女の足取りが徐々に分からなくなり、大学卒業とともに完全に分からなくなる。この目の前にいる、久臣が知る限り煌を一番気にかけていただろう綾乃ですら。
 
けれど姉は諦めなかった。
 
最初は綾乃自身も、彼女が選ぶ道だと納得しようとしていた。
しかし、それは納得しようとすればするほどできないもので。…けれど、そんな2人を仲間が背を押してくれたのだ。
理由は知らないだろうし、彼女たちが悩んでいた内容も知らないはずなのに、でも確かに親しかった友人たちが
彼女の死を否定してくれた。
理由にはそれで十分。
 
だから、その来るべき運命予報を変える為に2人は動いたのだ。自分達を縁を切る事を思い直させるための言葉は浮かばなくても、あんな悲しい最期を迎えさせない為に。
けれどその結果を綺麗に拭う事はできなかった。命があるだけでも御の字と言われればそれまでなのだが。
 
「…煌ちゃん、これからどうするのかしら…」
 
 ぽつりと綾乃が呟く。
彼女の最期を知ってから、どう彼女に接するべきか綾乃は悩んでいた。思いとどまらせようにも、彼女が何を嘆いてそこまでの事をしようとしているのか、分からなかったのだ。
 
薄情なのかもしれない。いや、現に薄情だったのだろう。
何を思い詰めて、何を後悔しているのか。想像はできるのに根拠がない。
理由が分からないと言う言葉を言い訳に、彼女の苦悩を拭い去る事が出来なかったのだから。
なのに、今はこうして彼女を助けようとしている。矛盾している行動が自分勝手なのは分かっていた。死んで欲しくないからと勝手に彼女を助けた。紛れもない綾乃と久臣は自分達の我がまま加減に嫌気がさす。
 
 だから彼女がどうしたいのかが分からない。
何で放っておいてくれなかったのかと言われても、きっと返す言葉が思いつかない。自分のワガママで助けた…いや、勝手に彼女の命を掬い上げただけなのだから返す言葉は思いつかなかった。
でも
 
「どうする? …そう言うけどさ、決めてるんだろ?」
「…私が用意するのは一つの選択肢よ。答じゃない」
 
 生きて欲しいと勝手なワガママを押し付けるのだから、一つの選択肢を用意しようとしていた。そしてその選択肢に想像がついていたから久臣は苦笑を返していた。
 
「それはそうだろうけどさ。…で、もう準備は出来てるのか?」
「いえ、今から貴也にお願いしようと思ってたんだけど…」
「綾ねえの権限で動いても荒が残るだろ。俺がやる」
「臣が? …当主が非一族の為に動くとよくない顔する人もいるわよ?」
「綾ねえがやった方が風当たり悪いだろ。 俺なら能力者の保護の一言で片付く。 ― 貴也」
「ここに」
 
 久臣達が話していた、煌が寝かされている部屋とは逆の隣の襖が開き、1人の青年と女性が頭を垂れて座っている。自分よりも幾分も年上の青年に、久臣は指示を飛ばす。
 
「どこでもいい。席を一つ用意してくれ。性別は女、年齢は27。名前は……追って連絡する
 ― 彩華」
「はい」
「各影に今日の事を口外しないように当主権限で封じておけ。既に主に報告しているなら、主にもな。
 方針が決まり次第詳細はこちらから提示。隠したりせず、きちんと説明すると通達してくれ」
「分かりました。」
 
 是の言葉を返すと、女性の方は隣の部屋から静かに退室する。
しかし、先に指示を下した青年がその場から動かないのを横目で一瞥し、再び声を掛ける。
 
「貴也。俺の指示に何か問題が?」
「当主」
「何だ」
「どこでもいいのですか?」
 
 その言葉の真意に、久臣は溜息をつく。気の利く部下がいるのは喜ばしい事なのだが、こうしてわざわざ自分の意思を確認させる当たり、この人物の『性格の良さ』には部下とは言え頭が下がる。
 
「…できれば、一番穏やかな所に。そうだな…知り合いに鎌倉在住の老夫婦がいたはずだ。そこがいい。
 準備出来るか?」
「ああ、あの…そうですね、そこが一番いい。分かりました。 当主の仰せのままに」
 
 自分が彼女を今後、どうしたいのかを彼は確認したかったのだろう。
一族に籍のあるものを用意すれば、今後世界結界が崩壊した後に来るであろう戦いに、自分は彼女を巻き込まなければいけない。それが嘉凪の能力者の定めだ。
しかし、一族に籍がなければ自分の命じる事ができる権限からは外れる。
つまり彼は、煌に今後戦いを強いるのか、そうではないのかの確認をしたかったのだろう。さすがは元能力者、その辺は覚えているものだなと、既に部屋を去った彼がいた場所に視線を落とした。
 
「これで一週間もあれば準備出来るだろ。 後は ―」
「煌ちゃんが何を選ぶか、ね」
 
 綾乃の言葉に、久臣は返事を返さずに席を立つ。
何を選ぶかは、確かに彼女の自由意思だった。けれど、できればもう戦いに身を投じないでほしいと思う自分の我侭が返事をさせてくれなかったのだ。
 
戦いから身を引けば、傷つくことはなくなる。けれど、彼女を苦しめた傷はそれじゃない事くらい分かっている。でも、その傷が何の傷なのか分からない。
 
「…この歳になってもまだ青臭いって笑われるのかな」
 
 母屋にいるであろう、この体たらくを見て笑う自分の師であり祖父である茂久の顔が簡単に想像できて、何となく足取りは重くなった。
 
 
 
 
                    と言うワケで煌ちゃんの事件から復帰までの
                    幕間を書かせていただきました。

                    ちょっと嘉凪の家でゴタゴタがあってますけど、
                    旧家が何かを外から受け入れようとする時はそんなもんなので、
                    気にしないでほしいトコです。
                    まあ、久臣と貴也でどうにか収集着けてますから、
                    ご本人に被害はないです。

                    と言うワケで、貴也が準備したのは煌ちゃんの新しい家です。
                    家と言っても新しい名前の戸籍がそこ(※鎌倉在住の老夫婦宅)に
                    なるだけで、住むのは嘉凪の本家、
                    つまり神和神社内の離れである功刀家になります。

                    この頃には功刀家にはちょいちょい保護されて
                    里親に出されるまでの能力者や、
                    マヨイガに入るまでのゴーストなどを保護してたりするんで、
                    1人2人家族が増えても特に綾乃も伊知郎も気にしてませんし、
                    もちろん優奈も。
                    (※伊知郎の親御さんである功刀氏には了承を得ています)
 



 
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2022/12/30 (Fri) 神和の日常 Comment(0)
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