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管理の合間に背後がのらりくらりしてる所です。
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2024/04/20 (Sat)
◆一応、恒例の注意書き。
 
1.これは「蒼衛」、「蒼衛2」の続きの話です。
※分類:『竜神衛士の一族、嘉凪家の話』がそれに該当。
 
2.この話に出てくる「嘉凪の一族」はあくまで嘉凪の脳内で作ったフィクション一族です。
  歴史とか民俗学、日本文学に詳しい人に言わせりゃ荒も多すぎて見れたもんじゃないと思います。
  なので、くれぐれもこの設定を参考にしないでくださいな。恥ずかしくて死ねます。
 
 
※今回はちょっとザックリ文章なので会話がメインっぽいです。
 そして舞台の時期は【2011/3/21】ですのであしからず。
 
※そしてこれ、3話まである予定です。




 





 
「当主がどうして、懸命に一族を守るのかお主は不思議に思わぬか? 血族の繋がりだとしても、今は戦国の世でもあるまい。当主の責務を捨てる者もいても不思議ではあるまい」
「…確かに。それに、理由があるって言うのですか」
 
 
 茂久の言葉に、久臣も頷く。
確かに今は戦国のご時勢でもないので、能力者でない者達にしてみれば外界からやってくる敵はいない。つまり、外界からの敵を排除して一族を守るべき当主など形のみに過ぎないのだ。
現に久臣が次期当主になってから行なっている当主代行の仕事だって、今まで一族が保有してきた莫大な量の資料の管理であったり、一族内で何か決め事がある時の議長であったり、現在で言えば企業の上の仕事のようなものだ。
資産の豊富な一族であれば分かるのだが、嘉凪の一族はそうではない。ある資産と言えばこの神社とその裏山、そして形ではないが昔から交流がある町の人達との絆くらいだ。なので別段、一族であるこだわりなどまったくないようにも見える。
 
けれど、現状はそうではない。常に当主には直系の能力者が選ばれ、一族を守ってきているのだ。
実際に次期当主になった久臣ですら、最初はその事を疑問に思うこともあった。けれど、慣れと言うものは怖い。いつの間にかそれが“当然”として扱われ、こうして他人に指摘されてやっとその存在を取り戻すのだ。
 
再びその事を疑問として認識した久臣に、茂久が頷く。
 
 
「当然じゃ。儂とて直系の責務と言う理由だけで当主をやっておるワケではない、そう言いだしても不思議ではないじゃろう」
「どう言う事だよ」
「…久臣、お主は忘れておるかもしれぬが……当主は親殺しなのじゃよ」
 
 
 茂久の言葉に、久臣はただ言葉を飲み込んだ。
薄々感づいてはいたが、それを認めたくはない。いや、仕方がない事だと心のどこかでその事象と向き合う事を自分は先延ばしにしていたのだ。それを今、目の前に突きつけられて言葉を失ってしまった。
 
それを茂久も見越していたのだろう。久臣が何も言わない事を認めながらも、話の先を続ける。
 
 
「狂気に犯された先の当主は儂の父親じゃ。 狂っていたとは言え、人殺し…しかも親殺しに変わりはない。一族は、それを黙認してくれている。そして、世界結界も能力に狂った事実を歪めてくれている。
 儂の前も、その前も……臣、現在お主以外の当主は、全て親、もしくはほぼ家族殺しなのじゃよ」
「…それが…一族を守る理由だって言うのかよ」
「それが一つの要因ではあるが、全てではない。純粋に一族を守ろうと当主をやっている者ももちろん存在した。
 
 これは儂の業…いや、儂で一族最後になる業じゃ。久臣、お前には無いもの。
…お主は初めてその業を背負わずに当主となる者、いや、儂がその業を背負わせはしない。…そして、お主は一族の浄化を行なう者となる。
 久臣、お主が嘉凪を変える当主になってはくれまいか」
 
 
 何代にも何年にも渡り、嘉凪の家が守り、背負ってきた本当の業。
墓の中に溜め込んだ穢れの本当の原因がこれだ。
 
神社自体が穢れを溜め込む場所であるのもあるだろうが、それでも町の一角にある神社にしては、神和神社の溜め込む穢れの量は普通ではなかった。
穢れが穢れを呼んでいた。直系がその業を溜め込めば溜め込むほど、その深さは深くなる。
 
途切れ途切れの情報だったものが、やっと繋がった気がした。
考えれば、もっと情報をかき集めればそれくらい気がつくのは容易かったのかもしれないが、内部にいて、それが当然だと思っていたから、その事実に気がつくのにこんなに時間がかかった。
 
家族殺しの汚名を被った一族が呪われる理由など、火を見ても明らかだと言うほどに近くにあったのに。
 
塗るま湯に浸かっていたのは、誰でもなく自分だったのだと久臣は戸惑う。
こんな自分に、祖父の期待の言葉は…この上なく眩しい。
 
 
「爺ちゃん…俺は…」
 
 
 口を開くが、不安は言葉に出来なかった。不安を吐露するのが格好悪いとか、そんな事考えもつかない。ただ、不安を言葉にする言葉が思いつかないのだ。任せてくれと胸を張る自信が、今の自分には揺らいでしまっている。
孫の戸惑いをしっかりと察したのだろう、茂久はゆっくりと彼を落ち着けるように言葉を続ける。
 
「肩の力を抜くがよい。何も特別な事を望んでおるわけではない。お主は今のままでいいのじゃよ、久臣。お主がお主のままでいてくれる事が、一族の変化となる」
 
 
 祖父の言葉は素直に嬉しい。そしてそれが事実なのも分かっている。
けれど、改めて突きつけられた事実に戸惑いが渦を巻いて自身を苛む。何十年、いや何百年と続いてきた一族を自分が変えられるのか。
次期当主となる時に決めたはずの覚悟が揺らぐ。何にでもない、自分の心の弱さの所為で。
 
 
「久臣様」
「…龍久殿」
 
 
 龍久は久臣の祖父の茂久の兄に当たる人物で、嘉凪の氏族長。
まだ歳若い久臣と並んで事実的に一族の序列2位の権威を持つ人物となっている。直接自分たちを育ててくれたワケではないが、彼もまた両親を亡くした久臣達を資金面から援助してくれた人物でもある。
突然この場で彼に呼ばれて、何を言われるのか分からない久臣は内心構えてしまう。しかし、彼の予想に反して告げられた言葉は意外にも穏やかな言葉だった。
 
 
「業がなくとも、我々を……いや、私の孫達を、久臣様と同じ世代を守ってやってはくれませぬか。
 老いた私達が言うのは角違いかも知れませぬが、彼らは何も知らないのです。ですから、今までどおり当主として、せめて」
 
 
 龍久の言葉に、久臣はその場に居た河瀬の氏族長と、辰瀬の氏族長を一瞥する。
2人はその権利がないと思っているのが、言葉を口にしようとする様子はないのだが、彼らも同じ気持ちなのだろう、久臣の視線に真っ直ぐな視線を返す。
 
一族の墓を浄化すると言い出した若輩者に彼らは不安を露に質問攻めにしてきたのは記憶に新しい。だが、それでも今、彼らは不安を抱えているはずなのに自分達の孫、つまり久臣と同じ世代の者達を守って欲しいと願ったのだ。
 
自分の不安に決意が揺らいでいた久臣は、静かに目蓋を伏せた。
祖父や氏族長達は不安を感じながらも、次代の為にこうして腹を括ったのだ。今までと違い、当主の業を背負わない自分にこの話をするのはどれだけ決意が必要だっただろう。もしかしたら自分は否定の言葉を返すかもしれないと不安に思ったかもしれない。
 
だと言うのに、彼らは真摯に自分達の罪を話してくれた。
ならば、自分が取る行動は彼らの誠意に応える態度を取らなければならないだろう。そう腹を決めて久臣は静かに目蓋を開いた。
 
 
「爺ちゃん」
「なんじゃ」
「綾ねえは…この事を?」
「察してはおるかもしれぬが、…あれにはこの事実までは話しておらぬよ。当主の座まで到っておらぬので聞く権利は生憎持っておらぬ。」
「そうか。 ……龍久殿、河瀬殿も、辰瀬殿も…俺は…」
 
 
 しっかりと息を吸って、肺から脳に酸素を行き渡らせる。
不安程度に、揺るぎそうになった気持ちに喝を入れて、気持ちを奮い立たせる。
 
 
「姉上から当主の道を奪った者です。
 
 あの人は、その事を知らずにただ一族を守ろうとしてきました。両親を失った俺達を当主は育ててくれ、そして一族はそれを見守り、時に手伝ってくれた。その一族に報いる為にと。
 
…俺もそう思っています。業があろうとなかろうと…この一族に生まれた事を、こうして次期当主になれた事を…俺は誇りに思ってます。
それが…一族を守る理由にはならないでしょうか」
 
 
 真っ直ぐに祖父を、氏族長達を見て、久臣は告げた。
それが彼を今まで突き動かしてきた純粋な気持ちだ。両親を失って、支えてくれたのは祖父であり、姉である綾乃が主だったが、一族の者達も見守ってくれていたのは幼いながらに知っていた。
そして ― 自分がそう、一族に誇りを持てるようにと、能力者として成せなかった亡き父は、願っていたことも。
 
 
「久臣様……」
「よく言ってくれた。ありがとう、久臣」
「いえ。礼を言うならご自身達の今までの行為に礼を言ってください。俺は恩を返すだけです。」
「そうは言うがの。普通ならばその言葉も易々と言えるものでもないのじゃぞ?」
「そうは言われても…俺はそう素直に思ってるだけだよ。伊達に爺ちゃんの孫じゃないって事じゃないか?」
「よく言うのう。さすがに背だけ高くなったワケではないのじゃの」
 
 
 かっかと笑い、茂久が自分の身長をすっかり抜いて成長してしまった久臣の肩を叩く。少し前までは頭を撫でる事も出来るくらいだったと言うのに、今ではすっかり背丈は抜かれ、手を伸ばしても満足に頭を撫でる事は出来なくなっていた。
それが自身の背が伸びたことの嬉しさと、あれだけ頼もしかった祖父が小さくなってしまったような寂しさを心の中に抱きながらも、久臣は苦笑する。
 
 
「どうだか。で、話は以上でしょう?俺、ちょっと出かけないと行けなくなったんで」
「もちろんじゃよ。それでは今日はここまでじゃ。 臣も時間を取ってしまってすまんの」
「爺ちゃん。この事…その、俺が当主の座にって事を綾ねえは…」
「承知しておるよ。お主の誕生日兼ねて豪勢な食事にすると張り切っておったが」
「そっか。分かった。  それから…辰瀬殿」
「何でしょうか、久臣様」
 
 
 まさか自分に話かけられるとは思っていなかったのだろう、辰瀬の氏族長は静かに、けれど少し驚いたように久臣に返事をする。
少々驚きこそ見えるが、その表情は穏やか。だからこそ久臣は不思議に思っていたことを素直に口にした。
 
 
「…なんで俺を当主として認めてくださったんですか。あなたは…姉上の支持者だったはずです」
 
 
 辰瀬の家は久臣が次期当主としてなった時も、先の綾乃が行った奉納舞の時もいまだ次期当主として相応しいのは綾乃だと推していた一派だったはずだ。
だと言うのに、今回の久臣の当主の拝命を彼は承認したのだ。当主に関しては三氏族全員の承認が必要なので、以前であればきっと彼が反対すると思っていたのだ。
しかし、その問いに彼は穏やかに微笑みさえ返していた。
 
「先ほど見せていただいたお手並みで決意したまでです。そして、先程のご決意でそれは確信に変わりました。
一族のほとんどが久臣様を認めていらっしゃる。そして何よりも、我々が推していた綾乃様が何よりもあなたを信頼されています。これが理由ですよ」
「……そう、ですか。ありがとうございます」
「いいえ。浄化の件もそうですが、久臣様にはこれからを頑張っていただかねばならないのですからね」
「臣」
「はい」
「鷹臣と雪乃さん(※綾乃と久臣の両親の名前)にも報告してこんか」
「…はい。 お引止めして申し訳ありませんでした。お先に失礼します」
 
 本殿を後にしながら、久臣は静かに腹の内に言い知れない不安が蟠っていた。
当主の権利を得たのは素直に嬉しい。姉である綾乃から次期当主の座を得ておよそ一年と数ヶ月。全てはこの座を得るためだけに一心不乱だったのだが……色々なことが頭を巡り、素直に喜ぶことが出来なかった。
 
確かに自分は数えで15。嘗ての時代ならば成人。そして嘉凪の家でも成人として見なされる歳だ。
だが、姉は数えを過ぎていても当主としての座は得られなかった。それは単に祖父がそれをしなかっただけなのだ。女の子と言うのと、現在の世では成人は20なので早すぎるだろうと判断していたからだ。
 
なのに何故今回の自分の時は違うのか。それが不安を抱かせる原因だった。
それが久臣が頼れるに相応しいから、と言う理由でない事くらい久臣自身が痛いほどに分かっている。確かに同じ歳の子に比べて成熟している彼なので、そう言われる事もあるだろうが、一族を任せられるほどでないのは分かっている。だから、そんな理由ではない。
 
ならば、久臣に思い当たる理由はたった一つだけだった。
 
「…綾ねえは…豪勢な食事とか言ってたから、台所か」
 
 1人呟き、仏壇のある母屋の和室へ向かっていた久臣は、仏間ではなく台所へ向かう為に歩を進めた。
出掛けると祖父に言ってあの場所を退席したが、それは間違っていない。これから姉と話す内容によっては、久臣はある場所……いつもの修行の場へ出かけなければならない。
嫌な予感が予感だけであればいい。もしかしたら、姉が違う理由を知っているかもしれない。そう願いを込めて久臣は急いで母屋へと歩を進めた。
 





                   遅くなりましたが、アプですわ。
                   えーっと、これは今年の3月21日、久臣が誕生日の日の話です。(汗
                   実はあの時には久臣は(一応)次期当主としての座を得てました。
                   けど、まだ仮免許みたいなもんだし、正式の任命じゃないし、
                   その辺説明をするのも説明されるほうも大変だろうしって事で、
                   本人も特に説明する気なかったので次期当主のままです。
                   
                   よ、よし。これ終ったから、鬼哭啾々の続き書くよ!
                   これ、長くなりそうなのでブログにリンク貼ってサイト公開にしようと
                   思ってます。
                   んで、参加者には前もって公開して、修正なさそうだったら
                   ブログにリンク載せるかたちを予定してまーす。
                   

                   
                   

 
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